鐘が鳴った瞬間、虐げられ令嬢は全てを手に入れる~契約婚約から始まる幸せの物語~
「正直、護衛という立場からは逸脱(いつだつ)した行為でした。しかし、騎士というのは単純で。自分に向けられた好意を、素直に喜んでしまう生き物なのですよ」
「そ、それは……つまり、デニス様も?」
「でなければ、そのように呼ぶことを求めません」
「っ!」

 デニス様は私の手を取り、跪いた。ここはアングラード侯爵邸に用意された私の部屋だから、他の誰かに見られる恐れはない。仮にあったとしても、騎士の誓いに見えるだろう。

 けれどこの成り行きで、それは有り得ない。だけど!

「私はデニス様に好きになってもらえるような要素など……」
「ヘイゼル嬢は俺と添い遂げる気はないのですか?」
「えっ! あ、あります! ありますけど……私のどこが良かったのでしょうか!」

 デニス様と同じ目線で話をしたくて、私はその場にしゃがみ込んだ。
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