鐘が鳴った瞬間、虐げられ令嬢は全てを手に入れる~契約婚約から始まる幸せの物語~
「知っている。だけどそれを面と向かって僕に言うのは、ヘイゼル嬢くらいだよ? だからまぁ、婚約を持ちかけたわけだけど……」
「さすがにミランダ嬢も、クライド殿下に言える立場ではありませんからね。けれど一応、言っておきますが、私の場合は悪意を持って言っているわけではありませんから」

 恩を仇で返すつもりもない。王太子の身分が剝奪されれば、こうして舐めてかかって来る貴族が現れるだろう。いくら今までと同じ、王子であったとしても、だ。
 だからこれくらいで、ダメージを負ってほしくはなかった。

「分かっているよ」
「何かありましたら、遠慮なくおっしゃってください。勿論、ミランダ嬢が嫉妬しない程度に、ですが」
「当然だろう? 僕だってヘイゼル嬢の想い人に嫌われたくないしね」

 クライド殿下がキメ顔で、そう言ってのけたものだから、思わず笑みが零れた。
 それと同時に安堵もする。これから苦難が待ち受けていることをご存知なのに、これほどの軽口を叩ける、その度胸に。
 けれど今後のことを思うと、私も人のことが言えた立場ではなかった。
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