鐘が鳴った瞬間、虐げられ令嬢は全てを手に入れる~契約婚約から始まる幸せの物語~
「隙がないように見えて、結構あるところかな」
「そ、それは抜けているということですか?」
「違う。手助けしたくてもできないけれど、見逃さなければできるから、目が離せなくなる。そのタイミングを逃したくなくて」
「だからあの時、義母様に……」

 逆に私は竪琴の腕前をデニス様に聞いてもらえている、絶好のチャンスだと浮かれていた。義母に揶揄されても構わない。竪琴は私の得意楽器だったからだ。

「あれは、心地よい雰囲気を邪魔された腹いせだよ。とても綺麗な音色で……また聴かせてくれないか?」
「良かったです。あの後ドタバタしていて、デニス様から感想を聞くことができず、残念に思っていたので」
「俺は音楽のことはサッパリだから、ヘイゼル嬢が求めている返答は言えないぞ。剣一筋の無骨者だから」

 思わずデニス様の厚い胸元に顔を当てた。私と同じように、早い鼓動。それだけで嬉しくなった。本当に私のことを、好いてくれているのだと思えるほどに。
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