一ノ瀬さん家の家庭事情。®️

えっ…でも…

「そうやってまた逃げるんだ。変わってないね、意気地なしのようこちゃん！」

そんな声を背中に、葉ちゃんはあたしの手を掴んだまま、ズンズン歩いていく。

顔は見えないからわからないけど、いつもの葉ちゃんではない。

「葉ちゃん…」

ようやく止まった足。

振り返った葉ちゃんはいつもの、ううん、いつもとは違う明らかに作り笑顔。

「いやー、なんか恥ずかしいとこ見せちゃった、ごめんね！」

へらっと笑うけど、それは本心の笑顔ではない。

「ほら、早く戻んないと真先輩にまた怒られるよ！チビーズ何やってんだってさ！みんな愛ちゃんのこと探してたんだから！行こ！」

葉ちゃん、無理して笑ってる。

あたしは葉ちゃんたちの中学時代のことについて詳しくはまだ知らない。

でもひとつわかるのは、葉ちゃんはすごく傷つけられてきたってこと。

だっていつも明るい葉ちゃんがこんなふうになるなんて、よっぽどなんだ。