【この本を読まないでください】
「ねぇ、推し変したでしょ」
推しているアイドルの私物サイン会で、推しに睨まれた。
最近ようやく日の目を見ることも増えたアイドルグループをかれこれ7年応援している。一番の推しは甘え上手な年下組の最年長だったが、最近加入した最年少に目移りしているのも事実で、ぎくりとする。
とはいえサイン会は毎回欠かすことなく参加したし、チェキも握手会も必ず彼女の元に通った。最年少の子にも会いたかったが、楽屋で共有されると困るので、自宅で個人楽曲を聴いたり推しカメを観たりするだけに留めている。目移りしていることは絶対にバレないように細心の注意を払っていたはずだが、彼女は随分と機嫌が悪かった。
「あたしだけ見てって言ってるじゃん」
彼女は俺が渡した小型スピーカーにサインをした後もスピーカーを弄りながら上目遣いで口を尖らせる。俺は焦って弁解した。
「推し変してないよ。俺がどれだけ推してるか知ってるだろ? 好きな色、好きな花、初めて喋った言葉、最近行ったカフェの名前、マネージャーと喧嘩した時の癖、お気に入りのインナーのメイカー、今でも全部言えるんだから」
推しているアイドルの私物サイン会で、推しに睨まれた。
最近ようやく日の目を見ることも増えたアイドルグループをかれこれ7年応援している。一番の推しは甘え上手な年下組の最年長だったが、最近加入した最年少に目移りしているのも事実で、ぎくりとする。
とはいえサイン会は毎回欠かすことなく参加したし、チェキも握手会も必ず彼女の元に通った。最年少の子にも会いたかったが、楽屋で共有されると困るので、自宅で個人楽曲を聴いたり推しカメを観たりするだけに留めている。目移りしていることは絶対にバレないように細心の注意を払っていたはずだが、彼女は随分と機嫌が悪かった。
「あたしだけ見てって言ってるじゃん」
彼女は俺が渡した小型スピーカーにサインをした後もスピーカーを弄りながら上目遣いで口を尖らせる。俺は焦って弁解した。
「推し変してないよ。俺がどれだけ推してるか知ってるだろ? 好きな色、好きな花、初めて喋った言葉、最近行ったカフェの名前、マネージャーと喧嘩した時の癖、お気に入りのインナーのメイカー、今でも全部言えるんだから」