【この本を読まないでください】
 男は吹き出した自らの血を浴びて大声を上げた。距離をとるように前へ突き出した手から鮮血が溢れ落ちる。包丁の刃が掠めた傷が熱い。

 男は突然家に押し入ってきた青年と対峙していた。なぜかは分からない。分からないとしか言いようがない。男は青年と面識がなかった。青年はぎらぎらと血走った眼で男を捉えると、狂ったように男に襲いかかった。薄暗い部屋で白刃が煌めく。

 男は必死で逃げ回った。しかしやがて体力が尽き、壁際へと追いやられる。男は叫んだ。

「やめろ! 殺せば罪が重くなるぞ!」

 青年はその言葉を聞くと、高らかに笑って男を刺し殺した。
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