また君に会うための春が来て
さやの視線が、あやの鼻先をくすぐったように、あやが呼吸すると、あやが首を返して、さやの両目をジッと見た。
あやは「成り行きで仲良くなったけど、本当にいい子だな」と思った。
さやは、心の奥を見られたような、ハッとした感覚に囚われる。
二人の間を風がすり抜ける文芸部室で、他の部員たちは黙々と自分の活動に精を出していた。その寡黙な空気に混じるように、あやとさやは、自分の手に取った書籍に、再び集中していくのだった。文芸部は、始まりの時刻も終わりの時刻も、明確な決まりはない。日々の参加は自由。下校も自由にいつでも行える。あやとさやは、毎日一緒に帰る。それが二人にとって何を意味しているのか。さやは、考えると、まるで宙を舞うような不安定な感覚に溺れるのだった。
カーテンが揺れる窓際で、さやは、一人、宙を舞うような感情を抱く。
あやは、美しく。容姿は、同じ女の子であるさやの心を、徐々に奪い、代わりに秘密の感情を与える。
魔性。
静寂は、心の奥に手が届くようだ。
そして二時間が経った。
「おっし!」
午後18:00。
あやが声を張って席を立ちあがった。パイプ椅子が、ガタッと音を立てた。
「帰ろ!」
間髪入れないあやの声に、さやは、あやを見た。
あやは、そそくさとカバンに『子どもの教育格差』を詰めていた。
「今日は捗ったぞ~!来週には感想文が書けます!神楽先輩!」
いつの間にか部室に来ていた神楽りお。白のカーディガンと、教室棟では一番上まで止めたシャツのボタンを外した胸元、華奢な首筋。
さやは、ホッとして、先輩であるりおの方を向くと「私もそんな感じです♡神楽先輩に読んでもらうの楽しみです♡」と照れながら言った。
りおは嬉しそうに、
「二人とも順調で嬉しいな。今年は部員増えたな。共同制作楽しみだ!」
と言う。
あやは笑って、
「そんな!先輩!プレッシャーですよ!よしてくださいって」
と言った。
あやは、少し、りおと話して、さやと二人で帰った。