また君に会うための春が来て
りおは、倫理の授業で習った「美的共感」について説明してみた。人Aがいて、その人の周りに沢山のAを視る人注視者がいて、中央に花が置かれている。Aが花を見て「綺麗だ」と言う理由は、注視者らが「綺麗だ」と思っているからだという。皆が美しいと思う物が美しい。これが「美的共感」だ。
あやは、感心して聴いていた。
りおは、次に「一元論」の話をした。人間には根源があって、その根源が生み出す世界にその人はいる。花が綺麗なのは、綺麗に見える根源があるから。仕事で忙しかったり、体調が悪かったりして、とても花が綺麗だなどと思えないのは、根源が荒んでしまっているからだ。根源が浄化されれば、また花が綺麗に見えてくる。これが一元論的な考え方だ。
あやは、
「すごい。悩みが吹き飛びました」
と言って、嬉しそうにしていた。
文芸部の部室で、知的な雰囲気が充満していく。りおは、場の空気を知的に塗り潰すほどに聡明な高校生でもある。成績は上位で、得意科目は日本史だが、倫理も好きだった。あやの心は、見たこともないくらい優秀な人に奪われて、驚きと感動の灯りが同時にともっていた。
りおは、あやが真剣にレズビアンなのかどうかは分からなかったが、こんなに美しい人物が自分に心を開いてくれた事を見過ごすのは勿体ないと思った。
りおは、
「私も女の子が好きだよ」
と言って、携帯電話を取り出すと、
「同じ部活だし、連絡先交換しようよ」
と言った。
あやは、
「分かりました!」
と嬉しそうにした。りおの、冗談のような、自分に口裏を合わせたような「私も女の子が好きだよ」という言葉が、あやを勇気づけた。その後、あやは、やる気が爆発したのか、読書感想文を一気に書き上げた。唸るような文字に、溢れだす著書への共感と批判が込められた疾風怒濤の読書感想文を書くことができた。そして、りおに提出した。りおは、今日読んで、明日の部活でレビューを配ることを伝えた。
あやは、
「りお先輩が書いているものも、読みたいです!」
と言う。
りおは、突然の申し出と『りお先輩』という呼称に、驚いたものの、急接近の期待感に高揚感が合成されて、嬉しそうに自分の書いている小説を読ませたのだった。
「友達からは『あやちゃん』って呼ばれているの?」
二人の会話は、弾み、心を許し合う先輩と後輩という関係のまま、もしかしたらこのまま発展していくのではないかという予感が二人を包んでいた。あやは、知的で優しい人物に、心が惹かれて行くのだった。