また君に会うための春が来て


2022年4月27日。文芸部1年生のあやと雛菊さやは、ゴールデンウイークの共同制作に向け、課題だった読書感想文を数日前に、2年生のりおに提出した。その時、あやは、りおが書いている小説を読ませて貰った。あやは、自分には魔法使いのような、りおの日本語の運び、文章力に感動してしまった。あやが、その気持ちを打ち明けると、りおは、「プロの小説家」を目指している事を打ち明けた。



あやは、りおの言う「プロ」の概念が、どういったものなのか気になった。あやは元芸能人で子役だった。プロの俳優だった。小説と芝居は別の分野だが、プロである以上、必要とされる精神面の強さは共通する部分もある。

放課後の文化部室棟は、教室棟とはまた違った空間だ。青春を絵に描いたような、自由に満ち溢れた世界だ。



りおが、

「今日は、ゴールデンウイークの共同制作について、何を制作するかを決めたいと思います」

と言うと、部員らはホワイトボードに注目した。りおの声は優しく、素朴な少女のような風貌も、学級委員のような凛々しさと合わさって、魅力がある。文芸部の部室の空気も、りおが一人いるだけで、色合いが違う。

進学校の長空北高校で、文芸部3年生は受験勉強が忙しく、あまり部室に来ない。部長は、それはそれとして、日頃は2年生が実質的なまとめ役をやる。りおは、1年生の三学期に、まとめ役に選ばれていた。



りおが、ホワイトボードに描かれた、猫の落書きをシュシュッと消していく。りおの白いカーディガンが揺れる。背の高いホワイトボードも、軽く、揺れる。



毎年ゴールデンウイークの共同制作は1年生部員が協力して行う。連休中に登校して、力を合わせて一つの作品を作る。1年生部員は、あやとさや以外に3人、照れくさそうに互いの顔を見合わせて微笑んでいる。入学から半月程経って、ようやく互いを意識し、打ち解け合うように顔を見る。



「浦川辺さんが、文芸部に入部したときは驚いたけれど」



「ね。仲良くしてね」



元芸能人・浦川辺あやの文芸部入部は学校でも話題になった。学校の男子生徒らは、あやをチアリーディング部に入部させたかったが、思惑は実らず。文芸部では、あやの長い金髪が、一際目立つ。少し褐色の肌も。



あやは、笑って、

「皆、大人しくて、すごく好き」

と言う。



りおは、

「皆、いつも黙々と自分の活動をしているけれど、こうやって顔を合わせると、仲良くて、良いなぁ」

と言う。りおも一年生部員らが好きだった。日頃は黙々と自分の活動をしているものの、顔を合わせると仲良く、打ち解け合っている。りおは、白色のカーディガンから覗かせる、教室棟では一番上まで止めている、シャツのボタンを外した。

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