また君に会うための春が来て
2023年11月29日。

この日遂に恋愛小説を書き上げたりおは、インターネットの投稿サイトに投稿した。いきなり出版社に企画の持ち込みをする度胸は無かったし、応募しようと目を付けていた小説のコンクールは来年5月の募集だった。

りおは、前哨戦と思った。おそらく1000人くらいが読んでくれる。レビューも100件くらい。受賞歴のあるプロからアドバイスを貰えるに違いないと。

インターネットで有名になったら、それを踏み台にして来年5月の小説コンクールに応募する。大学に進学せず一直線に小説家になるのだ。高校卒業後だから、その前に親を説得しないといけない。インターネット上で評価されて自信と勇気と根拠を持てた状態でなら、親もこの道を承諾するだろう。これが新しい「最短ルート」の計画だった。



2023年12月6日。

しかし現実は残酷だった。読者は17名。レビューは1件だけ。5つまでつけられる星を4つ貰えた。現実は圧倒的に厳しく、評価は低い。実は投稿翌日には薄々感づいていた。この日になって漸く現実を受け入れたのだった。



りおは、自室のパソコンの前で突っ伏していた。勉強の事、学校の事、小説の事、様々に頭を巡った。そして1階にいる母親のもとへ階段を下りた。

いつもと変わらない、何も知らない母親に申し訳ない気持ちもあった。



「お母さん、コンビニに行ってくる」



母親は



「そう?行ってらっしゃい!」



と言った。



りおが玄関を出ると、相変わらず瀟洒な住宅街が顔色を変えずに建っている。1か月前と何も変わらない閑静な住宅街。りおは「近所のコンビニに行く」と言ったものの、自転車で駅前の本屋まで行った。



りおは、本屋では、なんとなく受験参考書を眺めた。

「逃避にすぎない動機だから、いけなかった」



りおは、一冊も買わず本屋を出た。自転車置き場を素通りして、駅前大通りに出た。そして数十メートル先の『ゴショガワラ』という交差点まで歩いた。

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