また君に会うための春が来て
カツーン カツーン
と階段を降りながら、あやは思った。
「りお先輩は、私が好きかな?」
降りる階段の踊り場を抜けて、二段、三段降りたところで、立ち止まった。
教室に帰れば、さやが待っている。
「気持ちは伝わっているのかな?」
そう思って、また階段を降りて、教室に戻った。
春から夏へ移り行く季節の変わり目の長雨。太古の昔から変わらない気象は、天の恵みでもある。あやは、自分とりおとの関係を占うような長雨に、逸る気持ちを癒して、長々と降り続くような清らかさと止めどなさに浸っていた。
あやが教室に戻ると、雛菊さやが歩み寄って、
「部活楽しみだね♡」
と言う。
あやは、
「部活は凄く楽しみだね!」
と言う。
仲の良い、あやとさや。さやは、クラスで、あやが一人にならないようにしてくれる頼もしい存在だ。あやは、成り行きで仲良くなった子だと思っていたが、同じクラスで過ごす時間は、二人の心を近づけて、愛情に匹敵する友情で打ち解け合っていた。さやは少し妄想が爆走しているが。
「あやちゃん♡雨の匂いが好きなんだね♡」
あやはりおへの好意が日増しに大きくなっていた。さやへは友情、りおへは同性愛の愛情の、小さな卵から孵ったばかりの幼体のような感情だった。
元来、人は雨がなければ生きていけない。現代は長雨を鬱陶しく感じる程に豊かで、経済力があれば生きていける。近代以前であれば天候に依存した人々の暮らしの多くが、職業や収入、高校生の彼らであれば将来にシフトして重大になった世の中だと言える。