また君に会うための春が来て
意を決して、あやは携帯電話を手にした。
「りお先輩。相談したいことがあります。長空駅で会えませんか?」
あやは、りおにメッセージを送った。りおが二つ返事で了承すると、あやは嬉しそうに私服を着替えたのだった。これから二人で長空駅で会う。
玄関で靴くつを履くと、リビングの扉が開いて、みちよが玄関へやってきた。あやは文芸部の先輩に会うことを伝えると、みちよは女子であることを確認してから許可した。あやは彼氏を作ることは禁じられていた。理由は父親の仕事上のステータスも関連しているが、息災なく高校生活を送って大人になってもらうために必要な事だとされていた。あやも女性同性愛者として、そのような家庭のルールは苦痛ではなかった。
あやが長空駅に着くと、りおが改札口を出た所で待っていた。
二人の目が合う。
入学式の日に、はじめて会ったとき、あの時間が止まったような感覚が蘇る。
りおの半袖のブラウスが、学生服とは違った色合いで、綺麗だった。
大きな丸眼鏡の奥に、優しい瞳がある。
あやは、小走りで、改札を抜けて、りおに走り寄った。
あやが「突然ごめんなさい」言うと、りおは「いいよ」と微笑む。
そして、りおの手が伸びてきて、あやの手を握った。
「いいよ。公園行こう」と、嬉しそうに言う。
あやは、胸がボウッと熱くなっていくのを感じた。
「はい!」と、あやが元気よく返事をすると、
りおは「少し歩くよ」と言う。
あやは「デートみたいですね!」と言った。
そんな冗談にまかせて、手を、繋いだまま。