また君に会うための春が来て
あやは、公園までの道で、ほとんどの悩みを打ち明けた。
りおは、
「私なんて、小説家になりたいという気持ちだけで、良くも悪くも、レベルとかランクとか、そういう考え方をしていないよ」
と自分を語った。
あやは、思った通りの答えに心の中がスッキリしていた。
学校の外で過ごす二人の時間。
指先が、教えてくれた。
これから日が落ちる公園に、まだ水溜まりがある。
大人びたりおの幻影から、子どもじみたりおが飛び出して、あやの心に描かれていく。
りおは、
「これ制服みたいだねって、お母さんに言われたんだ。変かな?」
と言う。着ているブラウスのことだ。制服とは違い、胸元にフリルがある。りおは、自分の容姿が、あやの容姿に敵うわけないとして、せめて二人で歩いても恥ずかしくないようにと思うのだった。
あやは「可愛い!」と言う。
ベンチがまだ濡れている。
あやは、りおのブラウスのフリルに手を伸ばして、触れた。
そのまま、りおのおでこに鼻先を近づけて、目を閉じた。
りおは慌てて、
「で、でーとみたいですね!じゃ!ないでしょう!」
とあやに言った。
突然の事で、驚きが湧いてきて、後から好意を寄せて貰えた高揚感が追いかけて来た。
指先が、教えてくれる。
目を閉じたまま、あやの心臓の音は速く、
「気持ち・・・」
と、自然と、そんな言葉の器用さが生まれて、口から出た。
りおは戸惑いながら、
「気持ちなんだ、そっか」
と言った。
あやは、まるで溶けるような胸の熱さのなか、
「仲のいい女の子二人です」
と言った。
恥じらう事のない胸の高鳴りを、受け止めて貰える幸せは、愛情の大小に由来せず、真っ白な世界を連れて来る。
りおは、
「うん」
と言った。このまま二人で、気持ちを確かめ合うための時間が待っているような、そうではないような予感の曖昧さが、むしろ、小さな感情を壊さないようにしてくれていた。要求の無い愛情の幼体だった。