また君に会うための春が来て


午後。蝉の鳴き声が聴こえる。真夏の昼下がり。りおは、母親に長空市立図書館に行くことを伝えると、家を出て、自転車に乗って、長空駅前のゴショガワラ交差点に行った。



図書館には、本当に用事があった。現代社会という科目の課題で、社会福祉に関する2000字のレポートの宿題があった。これを一日で終わらせようということだ。



照り付ける太陽。



りおは、蝉の鳴き声がこだまするゴショガワラ交差点で、立ったまま佇んでいた。暑さなど関係ないくらい真剣に、悩んでいた。



そもそもゴショガワラ交差点が所謂心霊スポットなのだろうか。他の交差点でも再現できるのだろうか。大型車両に跳ねられなくても時間が巻き戻るのだろうか。全く別のところに条件があり、今まで知らず知らずのうちに満たしていて「ゴショガワラ交差点で大型車両に跳ねられる」というのは一つの成立パターンに過ぎないのか。逆に、その辺りが上手く行かず、跳ねられただけで終わる可能性もあるのか。



信号が、青になったり、赤になったりを繰り返す。



交差点を通り抜ける車の音と、人の足音とが、定期的に入れ替わる。



よく考えたら、謎だらけだった。しかし「ゴショガワラ交差点で大型車両に跳ねられると時間が巻き戻る」ということだけ覚えている。滝のような汗が流れ落ちる身体。日は少し陰ってきたが、やはり暑い。



「思い出せない」



と、りおは思わず声を出した。



時間を巻き戻す方法は思い出せるが、今まで何回巻き戻したのか、数えることができないのである。そのことに気がついたのだ。むしろ何で、今までこの思考をしなかったのだろうかと思った。



自分は何かの超常現象に確実に巻き込まれていて、自分自身の人為でコントロールしている部分ばかりではないから、むしろ幸せを叩き壊すように時間が巻き戻る場合だってあるのだろうか。



「短絡的思考しか持ち合わせていなかったのはなんでだろうか」



人の気配に気づく由もない。これから自分の身に起こることに対する不安が、ゾワッと沸いて、りおを包んでいく。



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