また君に会うための春が来て
「神楽」
「え?」
「偶然」
「前田君!」
自転車に乗った前田よしとが現れた。りおの立ち尽くすゴショガワラ交差点に。
「あ、汗びっしょりだな。熱中症になるぞ。日焼けもするし」
よしとは、言う。
「…前田君。この後どうなるか知らない?」
りおは、よしとがあまりに親切なので、聞いてみたのだった。この時間巻き戻し現象について知らないか、という意味だ。知っていれば質問の意味もなんとなくわかるだろう。
「知らない」
よしとは答えた。
「何を知らないのか?」と刑事ドラマみたいに聞こうか。
「本当に偶然?」
とりおは質問を変えてみた。
「1年生の夏も道で会っただろう。近所だから仕方ない」
なんだろうな、と、りおは思った。よしとの答えが、微妙にズレながら、妙な噛み合い方をする。
「今日は、久しぶりにバレー部が休みだから。図書館で現社のレポートをやるつもりで家を出たんだ」
とよしとが言う。
りおは、傍で止めていた自転車に跨って、
「一緒に行こう。二人で協力して、さっさと終わらせよう。私も現社のレポートを図書館で書こうと思ったんだ」
と言った。何かが吹っ切れていた。いつものよしとだと思って、一緒に図書館で勉強しようと思った。
よしとは、
「それは助かる」
と言って、二人で自転車をこいで図書館へ向かった。
図書館に行くと、冷房が効いていて涼しかった。背中の汗が冷たいが、そのうち渇くだろうと思った。図書館の1階には喫茶店があるが、値段が高く、高校生には敷居が高い。
よしとは、エスカレーターへ歩く。
りおも、小走りに後を追って、エスカレーターに乗った。
ゆっくりと上へ登っていく。
二人で、図書館に来てしまったと、りおは思った。ペットボトルのお茶は、飲んだら蓋をしてすぐカバンに入れる。ビン・缶類は自販機コーナーで飲まないといけない。よしとが、インターネットで選んできた本は、図書館にあり、確かに読みやすく、あっという間に2000字のレポートが書けた。よしとは、成績は中の上くらいだ。途中、本に書いてある意味を確かめ合ったり、互いの書いたものを交換して読み合わせたりもした。