また君に会うための春が来て
2022年4月8日。
りおが目を覚ますと、自宅・自室のベッドだった。りおは1階の洗面台で顔を洗い、歯を磨いた。肩に届かないショートヘアを櫛でとかし、大きな丸眼鏡をかけた。
「また神様を頼って時間を巻き戻した?」
りおは、高3の秋から受験勉強を投げ出していたことは、全て忘れていた。
りおは、基本的に2022年4月8日以降の記憶を『神様を頼った』場合は忘れる。むしろ、唯一『神様を頼った』という既成事実だけ覚えている。
「おそらく受験に失敗したのだろう」
「志望校に落ちて『神様を頼った』のだな?」
と、りおは思った。
新学期。長空北高校へ登校する道。桜並木が閑静な住宅街に咲き誇る。自転車で学校に行くと、りおが『神様を頼った』ことすら知る由もない生徒達が、真実を言えば、本当は何度目かわからない新学期に胸をときめかせていた。
「りお!またよろしくな!」
気さくに話しかけてきた生徒が、新2年生の横山みずき。
「神楽さ~ん。同じクラスで本当によかった~。またテスト前に教えて欲しいな~」
勉強を教えて欲しい生徒が、同じく新2年生の田原えみか。
りおは、
「…2年生になったし、ガリベンする。いい大学に行きたいし」
と言った。
みずきは、
「ありゃ!なんかクールになっちゃってんな!」
と言った。
えみかは、
「勉強は大事だものね~。仕方がないよ~」
と言った。
すると、1年生の頃に同じクラスだった男子生徒・男子バレー部の前田よしとが話しかけてきた。
「横山!神楽!田原も!また~よろしく!」
「それでさ!今年の新1年生に元芸能人がいるんだって!子役で有名だった『浦川辺あや』だよ!俺らが小学生の頃CM出てた子!いま正門のところでスゴイ人だかりになってるから、一緒に見に行かないか?」
みずきは、
「芸能人?『うらかわべ』って微妙に人気だったけど本当か?見に行こうか?」
と言う。
えみかは、
「前田くん、馴れ馴れしいけど、いいひとだよね。なんでも教えてくれる」
と言う。
りおは、とても厳かな表情で、
「見に行く」
と言った。