また君に会うための春が来て
校庭は、後夜祭会場の設営が始められていた。午後18:00以降は後夜祭と言って、校庭に設営されたステージでショートコントをしたり、漫才をしたりする。文化祭実行委員の生徒達が、厳しい残暑の暑さをすっかり忘れて、協力して設営している。彼らのような生徒が毎年大勢いて、長空北高校文化祭は成り立っている。
横山みずきは、設営の様子を木陰から眺めていた。
「よくやるねぇ。愛校心があって素晴らしい」
演劇部が配っていた団扇で扇ぐ。
「演劇は結構面白かった」
「俺も同じ感想」
前田よしとは、同じクラスのよしみで、一緒に木陰で涼んでいた。
「横山は、部活対抗ブレイキンに出ないのか?」
みずきは遠くを見つめながら言った。
「りおから聞いてる?」
よしとは、無視されたことには触れず、
「『禁断の交わり』って冗談めかして言っているけれど、横山は応援団だよな?」
と言った。
みずきは黙って頷いた。
みずきは、軽く咳払いをしてから、
「問題は、ヤってしまうのか、だよな。その際、怒張したものを使用するかどうかだ」
と言った。
よしとは、
「すまん、そこまで言うなら横山は部活対抗ブレイキンに出て欲しい」
と言う。
言って、二人して笑った。
すると「おう」と野太い声がして、陸上部2年生の園崎が木陰にやって来た。
「前田は、高低差を感じさせないよな」と言う。
そう言って、みずきとジッと見つめ合って、よそよそしく場所を移そうとする。
みずきと園崎は付き合っている。園崎も陸上部の投擲選手だ。
首だけで振り返った園崎は、
「嘘だよ。ブレイキン見に行こうぜ」とよしとに言った。
園崎は、みずきの目の前にも関わらず得意げに力説した。
「手をつなぐのだって肉体が必要だから。みんな肉体が目当て」
よしとは「さいですか」という顔をして、そっぽを向いた。