また君に会うための春が来て
委員長風の優等生にしては珍しく野次馬。結果、四人で見に行くことになった。中庭の桜も長空北高校へ入学以来、二度目。正門の人だかりに混じって、四人は『浦川辺あや』をひと目見ようとした。正門の外通りに黒い車。立派な黒いメルセデスベンツだ。みずきは背伸びをして、目線の先に車を見つけて「すごいな!あの車に乗って来たんだな!」と言う。
えみかは、背伸びをしても前が見えないようだ。
よしとは、浦川辺あやが見えたらしく「やっぱ!あんな感じか!」と言った。
長い金髪のロングヘアに、東京都出身ながら沖縄風ボーカリストのような顔立ちの完全なるギャルだった。
しばらくして教職員らが駆けつけて、人だかりに注意を促し始めた。浦川辺あやはようやく前に進むことができた。
教職員らは、
「一年生はこれから入学式だから、邪魔になるようなことをするんじゃない。行事が遅れるだろう」
と言った。
人だかりの生徒達は、教職員らに言われ、自分達の教室に戻って行く。
「浦川辺さんも、今日はお母さんも入学式に出席する関係で送迎車両があったけれど。通学は公共交通機関か自転車、あるいは徒歩だからね」
「はい!わかりました、すみません!」
浦川辺あやは、ハキハキとした、よく通る声で言った。そして金髪ロングヘアについては一切注意がなかった。
人だかりが微妙にはけて、浦川辺あやの姿が、りお、みずき、えみかにもはっきりと見えた。
えみかは、
「これから同じ学校の生徒だから~。芸能人だと思わずに接してあげなきゃだめかな~」
と言う。
みずきは、
「今じゃ全然テレビ出てないよな!背っ高っ!」
と言う。
みずきの声が聴こえたのか、浦川辺あやがキッと、りお達の方を見たのだった。
あやの目と、りおの目が合った。
桜の花が散るのをやめたような、一瞬の間があった。
すると、あやが、まっすぐに、りおを目掛けて歩いてきた。
りおは、なんとなく、動じずに立っていた。
あやは、りおの目の前で立ち止まり、
「先輩!芸能界戻る気ないんで、普通がいいです!」
と、何故か、りおに大声で言った。りお達は唖然として、「は、はぁ」という空気になった。周りの生徒達も「なんだろうな」という空気だった。
りおは、
「はじめまして、私は神楽りお、ジロジロ見てゴメンね、浦川辺さん」
と言った。