また君に会うための春が来て
そんな風に会話をしていた二人が、りおに気がついた。さやは面識が無かったが、あやは挨拶をした仲だったから「また挨拶をしないといけないな」と思った。
「神楽先輩じゃないですか!」
「浦川辺さん」
りおとあやは、また見つめ合ってしまった。りおの大きな丸眼鏡が、あやの像を二つ、左右のレンズに映し出す。「可愛いな」とりおは思った。そこで、りおは文芸部のビラを渡したのだった。
「文化祭ではたこ焼き屋をやります・・・!文芸部です・・・!」
ビラ配りの上級生の声が、雑踏のようなBGMになって聴こえてくる正門前で、りおの大きな丸眼鏡に映った二つのあやが、キョトーンとして、言った。
「文化祭のたこ焼き屋・・・?」
思わず質問した、あや。
りおは、説明した。
「そう!普段は小説書いたり、随筆を書いたりしているけれど、一から丁寧に教えるから心配いらないかな。文化祭のたこ焼き屋は文芸部の伝統だよ」
あやは霊感商法に洗脳された主婦のような佇まいで、何故か、微動だにせず「たこ焼き、たこ焼き」と小声で呟いた。
「・・・・たこ焼き」
「・・・・入部したいです」
「え?」
りおは驚いた。
「入部してくれるの?浦川辺さん?」
あやは、
「・・・はい。・・・浦川辺あや、文芸部に入部します」
と言う。
さやは慌てた。
「どうしたの?あやちゃん、たこ焼き好きなの?」
「じゃあ今日銀ダコにしよっか♡銀ダコも駅前にあるよね♡」
返事がなく、棒立ちしたまま、小声で「たこ焼き」と呟く、あや。
「おーい!あやちゃん!返事して~!」
さやの声が吹き荒れる正門前で、桜の花びらがまだ散りきっていない中、元子役・芸能人浦川辺あやが長空北高校文芸部に入部した。