やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様
「出来るだけのことをするわ。自分からは、決して諦めたくない」

「……恋する乙女には誰も敵うまいな」

「え?」

 魔法使いが呟いた声に、私は何を言っているんだと思った。だって、何の脈絡もないように思えるもの。

「いや……大方君の恋の記憶は消したはずなのにと、そう思ってな。不思議だな」

「確かに……私もマティアスへの想いは、ほとんど忘れてしまっていたけど、どうしてって思った。けれど、彼の存在がどうしても……忘れられなかった。貴方に全部消して貰っていたら、楽なのにと思ったりもしたけれど、忘れていなくて……良かった。ありがとう。私にやり直しをさせてくれて……」

 あのまま何もかも忘れてしまっていたら、マティアスもラウル殿下も死んでしまって終わっていた。何もかも最初からまるで何もなかったかのように。

「君の記憶は、魔法と馴染みが良くて助かったよ。一年前に戻すに足りる記憶で、良かった」

「……どういうことなの?」

 魔法使いの言っている意味がわからなくて、私は訝し気に眉をひそめた。

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