やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様

04 手紙

「ニーナ」

 聞き覚えのある声に、私はびくっと背中を震わせた。

 休みの日……街に出ようと屋敷の勝手口を出ると、すぐ後ろからマティアスの声がしたからだ。

「マっ……グランデ様。どうして、ここにいらっしゃるの?」

 ついつい慣れた彼の名前を呼んでしまいそうになった私に、彼はにっこり微笑んだ。

「どうぞ、そのままマティアスと呼んでくれ。断られているのに、ここまでしてしまうのは、しつこいと重々に分かっているんだけど……せめて、一目会いたくて」

 マティアスは美しい顔を歪めると、切なそうに声を震わせた。

 ……私の胸も震えてしまうのは、前の恋の残滓? ……それとも。

「……どうして、私が今日……休みだと、知っているの?」

「最後の手段で、あの時に一緒に居た君の同僚に賄賂を渡したんだ。喜んでくれたみたいだよ」

 セイラってば。道理で送り出す時に、私服のチェックが厳しいと思った。

 いつもと違う様子に、何も思わなかった私も私だったけれど。

 なんだか、意味もなく今着ている水色の上掛けと青いワンピースと、合っているのかどうなのか気になってしまった。

「私服も……可愛いね」
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