やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様
 自ら捨てに来たのでもなければ、勝手にその気持ちを忘れさせるなんて、なんて勝手な男だろう。

 身勝手に、彼女の想いを捨てさせるなんてなんて……。

「愛する彼女に、死に行く自分の姿を見せたくなかったのかね」

「そんな……」

 魔法使いは、ゆらゆらとした紫色の恋が注ぎ込まれていく瓶を見ながら、どうでも良いことのように言った。

「彼女本人が……それを望まなかったのかどうかは、彼女に聞いてみないとわからないね」

「私だったら、望まないわ」

「何故」

 魔法使いは、心底、不思議そうに問うた。

 何の理由か、しわがれ声のように、声を低くしているけど……実はそんなに年老いていないのかもしれない。

 瓶の中身の容量が増えていくのが、徐々に減り始めたのが目の横に映った。

「……今、君は忘れようとしているのに?」

「だって、こんなに……良いことばかりだわ。こんなに幸せそうだわ……私とは、全然違うわ」

「彼が死ぬのがわかれば、一気に色を変えただろうね。絶頂の幸せから谷底の悲しみ一気に突き落とされるのは、どんなにか不幸なことか」

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