やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様
「私は不幸ではないって、そう言ってるみたいに聞こえるわ」

 魔法使いは、まるで言葉を選ぶように言った。

「気持ちを一気に失うのと……徐々に覚悟を決めて失うのは全く違うものだよ。お嬢さん」

 魔法使いは水差しを持つと、重ねたコップを器用に片手で二つ置くと、透明な水を注ぎ入れた。

「ゆっくりと、流れていくもの」

 右側のコップを持ったまま、ゆっくりとそれを倒した。机の表面を滑り落ち、床へと流れていく。

「一気に壊れていくもの」

 左側のコップはガシャンと床に落ち放射線状に広がった。

「心だって、この器と同じさ。壊れてさえなければ、次のものが注ぎ込まれる余地はあるはずだろう?」

「私だったら、私だったら……」

 私は歯を食いしばりながら思った。その優しい人と、あんな酷い男を比べて、何が楽しいいんだろう?

「その人が死にゆく運命なら、死なせないようにするわ。病気だって、なんだって、私にやれるだけのことはあるはず。だって、勝手に忘れさせられるなんて嫌よ!」

 忘れることを選ぶのなら、自分で選ぶはず。

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