やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様
 まんまと彼に夢中になった私を、あっさり捨てた人で。

「私はならないわ。ごめんなさい」

 すげなく言い、料理に向き直った。

 料理は温かくて、美味しい内に食べに限る。

 恋と同じで冷えてしまったら、全然美味しくないんだもの。


◇◆◇

「ニーナ、また会いたい」

 帰りの馬車で対面に座り、慎重にマティアスは口にした。しつこくも取れる言葉に、私は首を傾げた。

 何故、マティアスは、私にそこまでこだわるんだろう。

 誘っても乗って来ない。脈がない女なんて、放っておいて他に行けば良いのに。

「……どうして、私にそこまでこだわるの?」

 私は疑問を、そのままに口にした。マティアスは息を呑んで、私の目をまっすぐに見た。

「理由は、自分でも良くわからない。初めて会った時から、君にすごく惹かれている。自慢ではないけれど、誘いを断られたのもはじめてだ……迷惑かもしれないが、君を諦めたくない」

 マティアスは実際のところ、私と知り合う前は、気楽に関係を楽しむ人だったみたいだ。

 グランデ家は、伯爵家で彼は三男。

 お兄様が二人居て、とても気楽なご身分だ。

< 54 / 169 >

この作品をシェア

pagetop