やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様

10 夜会

社交界デビューの夜会、私は踊り疲れて、壁に背中をつけた。

 長いように思えた夜会も今夜デビューした令嬢たちが、ラストダンスを王太子フェルディナンド様と踊ったらお開きのはず。

 シメオン兄さんにエスコートされて入場してから、ずっと挨拶に次ぐ挨拶、自己紹介をし続けて、兄さんたち縁のある男性とのダンスばかりすることになって、すっかり疲れてしまった。

 ずれ落ちてしまった二の腕まである白い長い手袋を直すと、近くにあったテーブルの上に置かれたグラスを取ろうと手を伸ばした。

 けれど、私が取ろうとしたグラスを誰かが先に取って、大きな手で渡してくれる。

 目を巡らせれば、近衛騎士服が見えた。

 ……これは……。

「ありがとう。ジャンポール」

 鋭く黒い目をさらに細めながら、ジャンポールは私の顔を見た。

 彼は正式な近衛騎士服を着ていることからわかる通り、今は仕事中なのだろう。物々しく帯剣もしているし……周囲へ放つ圧のようなものも強い。

「……ニーナ嬢。今夜が君の社交界デビュー日だとは、知らなかったな」

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