やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様
「デビュタントたちとのラストダンスは王太子だけでは大変だからな、いつもラウル殿下も手伝って踊ってるんだ。知らなかったか?」

 自分も冷たい飲み物が入ったグラスに口をつけると不思議そうに私の顔を見た。

「ええ。私も最後にフェルディナンド殿下と踊るものだと思っていました。ラウル殿下なら顔を知っていますし、想像していたほど緊張しなくてすむかもしれません」

 ここまで緊張していたのが、力が抜ける。

 ダンスを踊っている時に王太子の足を踏んだなら、それこそ伝説のデビュタントになって、ある意味ではとても有名になってしまう。

 そんな心配をしなくても良かったと、肩を竦めて笑った。

「……踊らないか、ニーナ嬢。せっかくのデビューの夜だ。踊り疲れているなら、遠慮するが」

 緊張しつつ、目の下を赤くして踊りに誘う人の顔を見て私は微笑んだ。

「もちろん。お誘いありがとうございます」

 慣れた様子でそつなくダンスを踊るジャンポールを見て、前の時間軸では見れなかった彼に驚いた。

 照れ屋で言葉が少ない人だとは思っていたけれど、貴族で嫡男だと言うし……公の場ではこんな、堂々とした態度なんだ。
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