やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様
「そう……だから、ジャンポールに任せているが、すぐに戻らなければならない。君とダンスしたかったんだけど、残念だ」

「そうですか……ぜひ、またの機会に」

 こういう時のお決まりの言葉を伝えると、マティアスは長い手袋に包まれた私の手をさりげなく取った。

「ジャンポールとは、先程踊ったと聞いたけど」

「ええ。とても、お上手でした」

 ジャンポール、そんなことまでマティアスに伝えたの。なんだか、牽制のようにも思える……。

「僕とも今度で良いから、踊ってくれると、そう約束してくれないか」

「ええ……もちろん」

 踊るだけなら。いくらでも。今夜だって、沢山の紳士と思ったわ。

「約束だよ」

 二度念を押すと、去っていった。

 マティアスはどうして、あんなにまで、私にこだわるんだろう。

 どうしてだろう。盲目的と言えるほどに、彼へ恋をしていた時は何も気にならなかったのに……とても、不思議だった。

 デビュタントたちと王位継承権を持つ王子のダンスは、夜会のラストダンスだ。

 身分の高いご令嬢から踊り終わったら会場から退出していくので、男爵令嬢の私は身分的に最後の方になる。

< 68 / 169 >

この作品をシェア

pagetop