やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様

02 目覚め

「あら、ニーナ、もう起きていたの？」

　目を擦りながら、起きたてな様子の同僚のセイラが言った。

　侍女の朝は、早い。仕えているお嬢様の起きる前に、すべての準備を済ませねばならないから。

「ええ」

　先に起きていた私は手鏡を覗き込みながら俯いて、答える。

　うねりのないさらりとした黒髪、菫色の瞳。平凡というよりかは、母にの整った顔を持つ少女が、私のことを不思議そうに見ていた。

　……私は、過去へと戻って来ていた。

　日記の日付を確かめれば、一年前の私だった。まだ、あの酷い失恋に至る彼と出会う前の私だ。

「ニーナ……どうしたの？　鏡なんて、じっと見て」

　二人部屋のもう一人、そばかすのある顔が可愛い赤髪セイラは世話焼きで優しい同僚だ。

　身分は貴族だけれど、実家にお金がないがために働きに出ている男爵令嬢である私を馬鹿にしたりせず、ちゃんと向き合ってくれる。

　私は手鏡をベッド側の収納にしまうと、慌ててエプロンのリボンを締めた。

「……行きましょう。メイヴィス様が起きてしまう」