やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様
 貧乏男爵家と付き合っても、将来旨味が少ないのは、幼い子ども同士だとしても良く分かっているからだ。

「あんな豪華な邸に居ると、なんだか本当に、夢か現実かわからないと思う瞬間がある。長い夢見ているような……とても、不思議な気持ちだよ」

 私も兄の言葉に頷きながら、手に持ったクレープを頬張った。貴族が買い食いなんてと思われてしまうかもしれないけど、私たちは貴族は貴族でも貧乏で庶民よりの生活をしていた。

 ここは小さな頃に、私たち兄弟三人でよく家を抜け出してよく遊んでいた公園で、あの頃の私たちもそこらへんのどこかから顔を出しそうなほどに何も変わっていない。

「だが、これで、お前にも十分な持参金を持たせてやることが出来る……ニーナには、好きな人は居ないのか?」

「いないわ」

 私はクスっと微笑みながら、心配そうな表情を見せる兄に言った。今ではもう全部忘れてしまいたい恋が、たまに胸で疼くだけ。

「そうか……ヴァレールは、ハサウェイ家の嫡男に婚約の打診をしているようだが、お前は構わないのか?」

「え。ヴァレール兄さん、気が早くないかしら……?」

< 73 / 169 >

この作品をシェア

pagetop