やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様
 パタパタと音をさせて、廊下を小走りで駆ける。私たちの仕える公爵令嬢メイヴィス様は、この屋敷の持ち主クロムウェル公爵の三人兄弟居る内の末娘だ。

「……おはようございます。お嬢様」

 大きな天蓋付きのベッドから顔を上げて、メイヴィス様はちらりと私達に顔を向けると、悪戯っぽく微笑んだ。

「おはよう。ニーナにセイラ。廊下を走ったら、またミランダに怒られるよ?」

 真白い肌に薔薇色の頬黄金の流れる髪、同色の瞳に素晴らしく整った顔。

 メイヴィス様は、絶世の美少女という形容にぴったりの美しい令嬢だ。しかし、その性格は亡き公爵夫人に似て温厚で優しい。理想的な、深窓のお嬢様だ。

 名前の出たミランダさんは、このクロムウェル公爵邸のメイド長で、私達の直接の上司にあたる。仕事には厳しくて有名だ。

「申し訳……ございません」

 そう言いながら、ちらっとセイラと目を見合わせて笑い合う。今日も我らがお嬢様は、とても可愛い。

 幼い頃から愛されて育った無邪気で毒のない十四歳のメイヴィス様は、どこに出しても恥ずかしくない完璧なご令嬢だ。

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