やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様
 私は何気なく、マティアスの首元を見た。

 私へと上着を渡し、彼は今白いシャツしか着ていない。見える場所ではないし、いつも留めていないのか、一番上のボタンが外れて胸元まで見えていたのだ。

 ……何かしら? 彼の首元をくるりと取り巻くように、複雑な模様の刺青が見えた。

「マティアス、様。これは?」

 急ぎ馬を走らせている中で、馬上は揺れていた。

 マティアスは私の顔に目をやると、キュッと口元を結び、悲しそうな顔をした。

 ……何?

「……ごめん。言えない」

 どこか項垂れたような言葉に、私は頷くしか出来なかった。

 前の時間軸のマティアスには、こんなものあっただろうか?

 結婚まで一線は超えてないにしても、付き合っている間にマティアスの首元を見る機会は何度もあった。

 白く美しい肌には似つかわしくない、黒くて禍々しい紋様だった。

 マティアスが目に見えて私に冷たくなってからは、もちろん肌なんか見る機会なんてなくて、きっちりと上までボタンは留められていたはずだ。

 ……なにかしら?

 何か見落としているような、何かが欠けているような、そんな不思議な感覚。

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