やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様
「その後に、追いかけて来てくれて私を助けてくれたの! ここに連れて帰って来てくれたことを、兄さんだって知っているでしょう?」

 勝手なことをされてしまった興奮のあまりに、はあはあと息をつく私に兄さんは肩を軽く叩いた。

「……お前はハサウェイ伯爵夫人になるんだ。見た目は良いかもしれないが、あいつは歴史ある侯爵家の出とは言え、ただの三男、スペアですらない」

「兄さんに、そんなこと……言われたくない! どうして……お見舞いに、来てくれただけなのに!」

「男爵令嬢が伯爵家に嫁ぐのに、どんな醜聞でも、命取りになる」

 ヴァレール兄さんは、静かに言い含めるように私に言った。

「私は……そんなこと、望んでなんか……」

「いいや、ニーナ、お前が望んだんだ。そうシメオン兄さんからも聞いている。他でもない、お前がな」

「それでも! ……私の命の恩人を追い返すなんて」

「何度も言わせるな。ニーナ。お前はこの、クルーガー家の令嬢なんだ……貴族の娘ならば、政略結婚は避けられないと知っているだろう」

「兄さん……ひどい……どうして」

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