やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様
「やあ。はじめまして。アベルです。シメオンにこんな美しい妹が居るとは、全く知らなかったな。慌てて婚約するのではなかったよ」

 彼は立ち上がり私の手を取って甲にキスする振りをすると、茶目っ気を出して笑った。当たり前だけど、兄なのだからマティアスに良く似ている。次男ということは、三男の彼のすぐ上のお兄様なんだわ。

「はじめまして、ニーナ・クルーガーです。マティアス様には、命を救われました」

 アベル様は私の言葉に、軽く顔を傾けて微笑む。

「どちらの弟かな。マティアスか、エヴァンか。僕には二人の弟が居るものでね」

「マティアス様です……暴漢に攫われそうになったところ、川に落ちてしまったのですが、偶然見かけて頂き追いかけて助けていただきました」

「そうか……マティアスも、たまには役に立つことをするんだな。家族に迷惑かけることに関しては、一人前の弟だ。君が助かって、本当に良かったよ」

「……そして、ここからが、君に我がクルーガー男爵邸に来てもらった本題なんだが」

 シメオン兄さんは、言いにくそうに切り出した。アベル様は笑いながら頷いた。

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