イノセント・ラブ

1

肌寒い11月。コートのポケットに手を突っ込んでアパートを出た。

陽が沈み暗くなり始めた路地裏を真っ直ぐ歩いて15分。

喧しいほどに光るネオン街は、今日も人であふれかえっている。

ここは日本一の繁華街。新宿・歌舞伎町。

人混みをすり抜け歩き進めると、一際目立つ看板が見える。

【プリティガール】

ファッションヘルス。いわゆる箱ヘルだ。
そして、ここが私の職場。

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「ユキちゃん、おはようございます!今日もご予約完売ですよ♪入店2ヶ月でNo.2、さすがです!本日もよろしくお願いします」

店の扉を開けると、受付には店長が笑顔で立っている。

時刻は17時前だけど、この業界で挨拶は『おはようございます』だ。

店長に軽く会釈をしてから受付の横にある廊下を歩く。

廊下には個室がいくつかあって、その個室をプレイルームと呼ぶ。

自分のプレイルームへ向かっていると、前から歩いてきたキャストと肩がぶつかった。

いや、ぶつけられた、という表現が正しいのかもしれない。

肩をぶつけてきたのはNo.1のミオさんだ。

ミオさんは少しよろけた私を見て、ふん、と目を逸らした。

…くだらない。

そっと体制を整えて、自分のプレイルームのドアを開けた。
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