このわがまま狼、手に負えません
「なんでこいつと一緒なの?!」
ビシッと隣を指差して声を上げれば、「なに?姫乃は俺と一緒は嫌なんだ?」とゆるく後ろから拘束される身体。
驚いて慌てて離れようともがくが、圧倒的な力の差に動くこともままならず……。
(……くっ、こいつ、親の前でなんてことを!)
「は、離してよ!疾風!」
「なんで?離す理由ある?」
「なんでって……パパとママが見て……っ」
「付き合ってんだから別に見られても問題なし。ね、おじさん、おばさん?」
私からの抗議を軽々といなしてパパとママに顔を向ける彼、阿久津疾風は確かに私、及川姫乃の彼氏であり、生まれた時から一緒の幼なじみだ。
でも、疾風は普通の彼氏なんかじゃなくて、えっと、なんというか……ともかく、やばいんだ!絶対一緒に住むなんて問題大有りなの!!
助けを求めるようにパパとママに視線を向けた頃には「もちろん問題ないわ。疾風くん、よろしくね」と年頃の娘を持つ親とは思えないセリフが放たれたあと。
「若い娘が、男とひとつ屋根の下って……いいんですか?!お父さん、お母さんっ!」
「いいじゃない?あなたたち付き合ってるんだし。過ちが起きても問題なし!」
「過ち……って!問題があるから過ちなんです!」
「姫乃ちゃん、ごめんねぇ?疾風一人だと心配だから姫乃ちゃんと一緒なら安心だなぁと思って」
「は、疾風ママ……いや、あの……」
私とママの口撃の間に入ってきたおっとりとした声に対して、「あなたの息子さんは安心でも、私は大変危険なんです……」なんて言えるはずもなく。
「姫乃も女の子一人で留守番させるの心配だしな」
「おじさん、任せて。変質者来たら俺が追い払っとくから」
「ははっ、頼もしいな」
パパお願い、この人が一番の危険人物なの……!