最愛の婚約者の邪魔にしかならないので、過去ごと捨てることにしました


 3.アルフレッド視点
 

 夕暮れのような綺麗な長い髪、檸檬色の瞳、白い肌に華奢な体。でも抱きしめると金木犀の香りと温もりが大好きだった。
 初めて出会った時に一目惚れしてから、ずっとディアンナは僕の傍にいて、離れないようにあの手この手を使って婚約者になる。ディアンナの母親が亡くなる前に、頼まれたのもある。
 子爵家は血統によってしか相続ができない。けれどもし何かあったら力になって欲しいと、そう言ってくださった言葉を胸に刻んで、子爵に後妻が入った後も自分の家の使用人を派遣してディアンナの肩身が狭くならないようにしてきた。

 あと数年、婿入りするまで──。
 そう思っていた矢先、神獣が降りてきたことで僕とディアンナの関係が大きく崩れてしまう。いや僕がもっと上手く立ち回っていたら、あんなことにはならなかった。
 
 神獣のルナ様は気まぐれでまだ幼く、邪気や邪悪なものに敏感になる。王城では妬みや嫉みなど負の感情が多く集まるため、特別な離宮を用意してもらい厳選された者以外立ち入り禁止となった。それでもルナ様は不調で寝込んでばかり。

「やはり婚約者があの方だと、ルナ様も辛いのでは?」
「婚約者様を代えれば、容態が落ち着くのではないでしょうか?」
「婚約者が原因なら排除──あるいは国外追放に」

 誰も彼もがルナ様の不調をディアンナのせいにしていく。最初に会わせた時にルナ様が警戒したのは、敵意や威嚇とは異なる……もっと別の感情があったように思えた。けれど噂話は一人歩きして、いつしか誰も彼もがディアンナが罪人かのような扱いをするようになった。

 実家ですら酷い扱いを受けていると聞いて、国王陛下に直談判することで表面上は収まったけれど、それは結果的によりディアンナを追い詰めるだけだった。

 婚約者の、ましてディアンナのせいじゃない。バナード殿下及び王妃が画策し、国王に毒を盛り倒れた。それにより王城はより殺伐としたものになった。ディアンナが政治の道具にされないよう、まずは神獣不調の疑いを晴らすため、一時的にディアンナと婚約解消を行う話をした。それから侯爵家の領地で噂が収まるまで匿い、神獣不調の疑いを晴らす。
 そのために詳細もディアンナに話した。婚約解消することでディアンナを守ろうとしたけれど、ディアンナが既に限界なのを──気づかなかったのだ。
 いや「ディアンナなら大丈夫だ」となんの根拠もない自分の都合を彼女に押し付けた。

 その日、ディアンナはデミアラ王国から姿を消した。何処を探しても彼女がいない。
 その事実に絶望した。

「私のためと思うのなら、全てを忘れて生きるので、アルフレッド様も忘れて幸せになってください」

 その手紙を読んだ瞬間、僕はディアンナのなにもかも守れていなかったのだと気付かされて、酷く後悔した。

 ディアンナが居なくなって、喜ぶ者や清々したと言い出す者までいた。だがそれはほんの数日で状況は一変する。
 神獣のルナ様がいるにも関わらず、各国で疫病が流行り、魔物が国内に現れた。ルナ様の容態も衰弱する一方だった。

 異常事態に陥って初めて国王陛下は隣国の聖王国に助けを求めた。そしてその返答の前に教皇聖下はこう聞き返したと言う。
子爵家の血族(ディアンナ)は国内にいないのではないか? であればそれが全ての原因だ」と。そこで知らされたのは、ディアンナの一族こそが神の末裔であり、存在するだけで聖域を作り出し、邪を払いのけていたと公表したのだ。
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