最愛の婚約者の邪魔にしかならないので、過去ごと捨てることにしました

 この国で家督を継げるのは血縁関係者のみだという本当の意味は『アルドリッジ子爵家のため』だった。本来は法王国の教皇聖下と同等の権限と力があったが、権力や地位を嫌って王国に身を寄せていたという事実に眩暈がした。

 つまりルナ様が過剰反応をしたのは、この地に神の血を引き継いだ者がいたことに驚いた──それを周囲が勝手に解釈付けて、本当の守り神を追い詰めたのだ。
 ディアンナは行方不明。自殺した可能性もあると噂が飛び交う。彼女が消えたその日、広場で雨に打たれて歩いていたという目撃情報があった。
 あの日、馬車を手配していたはずなのに──そう思い出し、見送っていないことを思い出す。

 聖王国は王国に対して、神への冒涜を行ったことを大義名分にして、干渉、いや国盗りを始めた。手始めに、王族を捕縛。王侯貴族も制圧してあっさりとデミアラ王国は地図から消えた。法王国の属国となり、そう喧伝することで、王国だった領地も聖なる結界に入れることで魔物の出現を抑えた。
 この国の加護は消え失せた以上、今までのような安全な生活は困難となった。ルナ様はあまりにも邪気や穢れの多さに耐えきれず、数日後に消失。「ルナ様が来なければ、この国は安泰だったのに」という不満が爆発したのも大きかっただろう。
 その気持ちは分からなくもない。もしルナ様が気まぐれに降りてこなければ、僕はディアンナと婚約者のままだったし、国も穏やかなままだった。

 歯車が一つ欠けたことで、豊かで栄えていた国は壊れていくのも早かった。ディアンナの捜索も行われたが、手がかり一つない。そしてやり場のない憤りは、王族と僕へと向けられた。

『なぜ婚約者なのに、最後まで守らなかったのか』
『婚約者のために時間を捻出しなかったのか』

 罵詈雑言の嵐をぶつけられ、王家は全ての責任を僕に押しつけることで民衆の溜飲を下げることを決断した。要するに生贄だ。

 抵抗する気力もなかったし、それでいいと思った。
 僕がディアンナに甘えていた結果だ。あの時、彼女に説明して納得してもらって大丈夫だと、ディアンナなら分かってくれると、都合のいい解釈をした。
 ずっと耐えていた彼女に、もう少しだけ耐えて欲しいと言ったのだ。コップの水が溢れているのに目を瞑って──愚かだった。
 ディアンナを抱きしめたのは、いつが最後だっただろう。
 好きだと言っていたけれど、それを免罪符にしていた気がする。
 最後に話したのは? 
 キスしたのは? 
 彼女に触れたのは?
 一緒に居た時間は?
 予定も約束も全て直前で断って、期待させて、一人きりにさせて、周囲の視線や心ない言葉を浴びせられているとき、僕は守り切れなかった。
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