最愛の婚約者の邪魔にしかならないので、過去ごと捨てることにしました
今度こそ手に届かないところに逃げたい。もう戻りたくない。
辛いのも、悲しいのも、訳がわからず心が揺れ動いて息が苦しいのも嫌。全部捨てて、やり直そうと思っているのに、どうしてそっとしておいてくれないの?
夕闇がまた私の全てを奪いにくる。悪夢と同じ。頭の中でたくさんの声が、羽虫が五月蝿い。
「──っ」
衝動的に、体が動いた。
捕まって、また過去を思い出すことも、戻ることも嫌。彼を見て、何も思い出せない自分が薄情だと思う自分も嫌い。
愚かにも私は過去と向き合うより、この世界から逃げることを選んだ。
選んだのに、足が固まってしまった。最後に私を踏み止まらせたのは、あの人の傷ついた顔を思い出したからだ。世界の果てまで私に会いに来てくれた人。もし、今の私を見て、過去を話すことを躊躇っていたとしたら?
ふう、と少しだけ気持ちが落ち着く。
「──っ、今すぐに……受け入れられないけど、少し気持ちの整理に時間をもらえないか……相談して……みるのはあり……かな」
過去は怖い理由の一つは、分からないからでもある。それなら少しだけ歩み寄ってみるのも──。
「あ」
ガタン、と足元が崩れ落ちた。