【完】同棲ギブアンドテイク〜スパダリ部長と秘密の同棲始めました〜


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そんな初々しい初出勤の日から1ヶ月ほどが過ぎた頃には、すっかり私のポンコツ具合に周りの社員の方々も気が付いたみたいで。

「─…全員、少し手を止めてくれるか?」


部長の一声で、社員の方々の動きが一斉にして静止する。



「彼女が、朝礼で話した新入社員の芳野 沙奈さんだ。初日早々、大幅な遅延に巻き込まれて精神的に参ってるだろうから…皆でサポートしてやって欲しい。自分が新卒の時のことを思い出せば、彼女の気持ちを理解できるだろ?」



部長の言葉を聞いて頷いている社員の方が沢山いるのが見えて…もう既に泣きそうになってきた。



「……何か、話しておくことはあるか?」



っと、私に発言する機会を与えてくれる折原部長。その優しさに感謝しながら、再び腰を折り曲げて90度の姿勢を保つ。




「芳野 沙奈ですっ…初日早々に遅れてしまって申し訳ございません!その分、仕事でお返しできるよう頑張りますので…ご指導のほど、よろしくお願い致しますっ!!」



緊張のあまり早口になってしまったが、すぐ隣で部長がパチパチと手を叩いて拍手してくれたことにより、他の社員の人達も手を叩き始め……



大幅に遅刻した私の初出勤は、折原部長のおかげでひとまず無事に終えることが出来そうだった。







「……芳野ちゃん、ごめん。せっかく作ってくれたグラフなんだけど全部…一行ずつズレてる」


「芳野……社内報で社長の漢字間違うのはNGだよー…悪いけど、やり直してくれる?」


「わわわ、それは両面印刷じゃない資料だよ!ストップストーップ!!!」



毎日が失敗の連続で…「すみませんっ!」という私の謝罪の声が部署に響かない日は無かった。



SNSを駆使して動画サイトを見たり、動画の編集や画像を加工する知識は無駄に備わっているものの…ExcelやWord、、PowerPointといったビジネスで役立つようなソフトの知識は学校で教わったレベルのことしか出来ない。



いや、その前に…漢字を打ち間違えてしまったりコピーがまともに出来ないという、社会人として無能な人間だということは、早くも皆に伝わってしまっているようだった。



「……芳野、ちょっといいか?」



芳野さん、なんて呼んでくれていたスパダリ部長も今となっては私の事なんて呼び捨てで…毎回呆れ顔をした部長に名前を呼ばれる度に、また何かやらかしてしまったのか…と落胆する毎日だった。



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