神殺しのクロノスタシス2
再び、シルナは箱にまみれていた。

しかも、気持ち悪いくらいの満面笑みで。

「…何だろう。横っ面ぶん殴りたくなったの、俺だけ?」

「大丈夫、私もです」

そうか。

イレース、お前とは良い酒が飲めそうだ。

シルナの悪口を肴にな。

しかし、シルナはそんなことにはお構い無く。

「よーし!開けるぞ~!」

クリスマスの翌日、サンタクロースにもらったプレゼントを開けようとする子供の如く。

シルナは、目安箱を一つずつ開封していった。

「あっ、入ってる!入ってるよ羽久!」

「あー、はいはい…」

自作の罠に、カブトムシ引っ掛けた少年かお前は。

「早速読んでみよー!えー、どれどれ…。『魔導書の歴史Ⅰのレポート課題を、少なくして欲しいです(ゝω・)』だって」

…。

「よし!課題減らそう!」

「おい。おい待てコラ」

これだから、開封に俺達が立ち会ったんだよ。

生徒に頼まれたら、何でも言うこと聞こうとするんだから。

「課題減らしてくださいって言われて、本当に課題減らすんじゃ、生徒の為にならんだろ!」

「だって、目安箱に投書してくるくらい悩んでるんだよ?きっとあのレポート課題、生徒にとって凄く苦痛なんだ!じゃあ減らさなきゃ!」

お前は良い教師なのか悪い教師なのか、どっちなんだよ。

生徒に甘い教師なのは分かる。

「その文章の最後の顔文字が見えんのか、お前は!生徒だって、本気で減らしてもらえると思って書いた訳じゃないよ」

「減らしてくれたら良いな~。な~んて」くらいのつもりで書いてるよ。

本当にレポート課題がキツくて辛いなら、こんな顔文字入れないよ。

「匿名ですからね。何でも言いたいことを言ってきますよ。全く…」

課題を減らせ、との生徒の要望に、呆れるイレース。

「まぁ、でも…課題は多ければ多いほど良いって訳じゃないからな…」

闇雲に課題を増やしさえすれば、生徒の学力が上がる訳じゃない。

ましてやレポート課題は、一から自分で文章を考える課題。

要領よくさっさと済ませられる生徒もいれば、物凄く手間取ってしまう生徒もいるだろう。

どの科目で、どのペースで課題を出すかは、考えるべきだな。

そう思うと、この顔文字付きの投書も、悪くはない。

更に、他にもレポート課題に関する意見書はいくつか見られた。

学年問わず、だ。

「正直、レポート課題がしんどいです。」

「レポートの提出期限を、もう少し伸ばして欲しいです。」等々。

「結構皆、レポートに苦労してるんだな…。よし、減らそう」

だから、お前は何でそんなに安易なんだ。

「生徒からの要望に、逐一応えていたら学力の低下に繋がります。このままで充分です」

ラミッドフルスの鬼教官は、相変わらず容赦がない意見。

確かに、それもそうなのだが…。

「折衷案を模索したらどうだ?レポート課題が苦手な生徒の為に、放課後に『レポート課題支援クラス』を開講するとか…」

「『レポート課題支援クラス』?」

「放課後になったら、学習室に教師が何人かついて、学年を問わず、レポート課題が苦手な生徒の為に、課題を手伝ったり、助言したりするんだよ」

毎週水曜日開講、とか。日時決めてさ。

レポート課題専門の、補習みたいなもんだな。

勿論、参加は自由。

クラスに参加したか否かで、レポートの点数が上がることも下がることも、勿論ない。

「それだ!それ良いね!」

案の定、シルナが食いついた。

「まぁ…。それなら、悪くないでしょう」

イレースも妥協。

よし。これで、レポート課題問題は解決かな。
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