神殺しのクロノスタシス2
「あ~。チョコレートは美味しいなぁ」

「…」

今日、この時間に避難訓練が行われることを知っているのは。

イーニシュフェルト魔導学院の中で、俺とイレースの二人だけである。

目の前のおっさんは、勿論知らない。

だからこそ、こうして呑気に紅茶を飲みながら、午後のチョコレートを貪っている訳である。

むしろ、これで良いのだ。

災害ってのは、いつ起きるか分からないからな。

もしかしたら、こうして呑気に菓子食ってるときに、本当に地震が起きるかもしれない。

そう思うと、これも良い訓練だ。

今は呑気にチョコ食ってるが、これから避難訓練が始まったら、シルナはどうなるんだろう。

まぁこいつはどうでも良い。

避難訓練は、生徒の為のものだからな。

シルナが紅茶をひっくり返して火傷しようが、秘蔵のチョコレートを落っことそうが、そんなものは知ったことじゃない。

生徒の速やかな避難行動が、一番大事なのだ。

俺は、ちらりと時計を見た。

さて、そろそろ予定していた時間だ。

学院では、午後の授業の真っ最中。

そこに、いきなり放送が入った。

いつもの校内放送ではない。

緊急を告げる、警告音入りの放送である。

「!?」

シルナがびっくりして、チョコレートに伸びた手が止まった。

スピーカーから、イレースの冷静な声が聞こえてきた。

「ただいまより、避難訓練を開始します」

よし、始まったな。

「校内に不審者が侵入しました。生徒の皆さんは、教員の指示に従って、速やかに校庭に避難してください」

今回の避難訓練の「設定」は、校内に不審者が侵入した、というものである。

本当は、校内に不審者が侵入したからって、「校内に不審者が入ってきたので逃げてください」なんて言わないことは分かってる。

そもそも校内には、教員という名のシルナの分身がうようよいるので、不審者の一人や二人、あっという間に取っ捕まえられる。

だが、だからこそ、だ。

毎年地震か火事かのどちらかなので、たまには違うシチュエーションをやってみよう、という訳だ。

何が起こるかなんて、実際起きてみないと分からないからな。

様々な事態を想定して、何が起きても対処出来るようにする。

それが避難訓練。

以上、イレース談。
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