神殺しのクロノスタシス2
「繰り返します。校内に不審者が侵入しました。生徒の皆さんは、教員の指示に従って、速やかに校庭に避難してください」

あくまでも冷静な、イレースの声。

実際本当に不審者が侵入してきても、イレースは冷静に対処しそうだな。

で、シルナはと言うと。

「あわわわわ、あわわわ」

めちゃくちゃパニクってる。

冷静からは程遠い状態だな。

「不審者!?不審者!?退治しに行かなきゃ!何処!?」

しかも、本気にしてる。

お前、避難訓練だって最初にイレースが言ったの、聞いてなかったのか?

「私の生徒に手を出そうとは、絶対許さない!退治しに行ってくる!」

おまけに、杖の代わりにボールペンを持って立ち上がった。

ボールペンで魔法を使おうとするな。

良かった。今回、俺とイレース主導で避難訓練やって。

マジで緊急事態が起きたとき、シルナはこうなるんだってことが分かった。

一番冷静じゃなきゃならない奴が、誰よりも動揺してるじゃないか。

「落ち着けシルナ」

「落ち着けないよ!生徒が襲われたらどうするの!?」

血相変えてやがる。

その心意気は高く買うが。

「イレースの話、聞いてなかったのか?避難訓練だ、避難訓練」

「へ…?」

シルナの、この間抜けな顔。

「避難訓練なんだよ。本当に不審者が入ってきた訳じゃない」

「ひなんくんれん…?」

「そうだ。不審者なんていないよ」

「…」

そう言うと、シルナは心底ホッとした顔で、ボールペンを机に置いた。

「なぁんだ、避難訓練か~。良かった~。本当に不審者が入ってきたのかと思ったよ~」

…。

「あーホッとした。あっ、チョコ落としちゃってた」

…何、落としたチョコ拾ってんだ。

そして、勿体ないとばかりに口に放り込む。

「…気を抜くな馬鹿めが!お前も避難訓練に参加するんだよ!」

「ほぇ!?」

つーか、落としたチョコ食うのかよ!三秒過ぎてるぞ。

「学院長だろうと関係ないぞ!五分以内に避難出来なかったら罰掃除だ!」

「えぇぇ!」

「おまけに、イレースの説教もセットだぞ!ほら急げ!」

「えぇぇぇ!!」

シルナ、大慌て。

こんなんで大丈夫か、この学院長。

もっと頻繁にやるべきだな。避難訓練。

学院長が一番頼りない。

「急がなきゃ!逃げなきゃ!何処に行けば良いの!?」

「校庭だよ、校庭!ほら急げ!走れ!」

「校庭!?校庭だね!分かった!」

「窓から飛び降りようとするな、馬鹿!非常階段を使え!」

「!?!?」

駄目だ、これは。

俺はシルナの襟首を掴み、強引に学院長室から飛び出した。

言っとくが、俺も五分以内に避難出来なかったら罰掃除なんだからな。

アホのシルナに巻き込まれて、一緒に掃除なんて御免だ。

シルナへの説教は、イレースに一任するとして。

まずは、このアホを連れて、校庭に避難しなければ。
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