神殺しのクロノスタシス2
幸いなことに。

ナジュ・アンブローシアという一年生の男子生徒は、すぐに見つかった。

と、言うか。

こちらが探すまでもなく、よたよたと玄関に向かって歩いてきていたのである。

「ナジュ君!?大丈夫!?」

「あ…。学院長先生…」

彼は壁づたいに、片足を半ば引き摺るようにしてよたよた歩いていた。

「足、どうしたの?」

「済みません…。避難してるときに…誰かとぶつかって…転んでしまって」

そういうことだったのか。

それはまた…不運な。

ぶつかって転んだ、と言うよりは…。多分、突き飛ばされちゃったんだろうな。

勿論、突き飛ばした方も無意識で、自分が誰かを突き飛ばしたなんて思ってもいないだろう。

人間、慌てていれば、周りも見えなくなる。

良い教訓だな。

この生徒には不運だったが。

「そうだったんだね。君が一人足りないから、心配してたんだよ」

「済みません…。本当に、ご迷惑おかけして…」

「良いから。回復魔法、かけるね。ちょっとじっとして」

シルナは杖を手に、得意の回復魔法をナジュ・アンブローシアの足にかけた。

「大丈夫?痛くない?」

「はい、ありがとうございます」

恐らく、少し挫いてしまっただけなのだろう。

シルナの回復魔法で、あっという間に良くなったようだ。

「歩ける?校庭まで」

「はい、もう大丈夫です。本当に…ご迷惑おかけしました」

「いやいや、良いんだよ。これが訓練で良かった。本当に不審者が入ってきてたら、どうなってたか」

シルナは、心から安堵したようにホッと肩を撫で下ろしていた。

「校庭でイレースちゃ…クローリア先生がお話ししてるから、自分で行ける?一年生だから、一番端の列に」

「はい、大丈夫です。ありがとうございました」

ナジュ・アンブローシアは笑顔でぺこりと頭を下げて、校庭に出ていった。

…。

「…この場合、あいつのクラスも罰掃除になるのかな」

「うーん…。不可抗力だと思うけどなー…」

しかし。

遅刻は遅刻、とのイレースの一言で。

後日、一年Aクラスにも、罰掃除が課せられたとか。

さすがは、ラミッドフルスの鬼教官様である。

もう、これからの避難訓練は全て彼女に一任するとしよう。

シルナなんかより、百倍は頼りになる。
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