神殺しのクロノスタシス2
そのとき俺は、いつも通り、学院長室にいた。

「あ~。美味しいねぇチョコレート」

「…」

相変わらず、シルナはチョコに夢中。

この人、もしかして頭の中。

チョコレートで出来てるんじゃね?

「良い午後だねぇ。天気も良くて…。こんなに天気が良いと、ついうたた寝したくなるね~」

そう言って、デスクにぐでーん、と突っ伏すシルナ。

その手には、チョコレートを摘まんでいる。

ご覧ください。

これが、イーニシュフェルト魔導学院の学院長です。

皆で署名でも集めて、こいつ辞任させようぜ。

とりあえず一発ぶん殴るか、と。

思った、そのとき。

スピーカーから、緊急放送が鳴り響いた。

「!?」

これには、シルナだけではなく、俺も驚いた。

何事だ?

すると、スピーカーから、切羽詰まったようなイレースの声が聞こえた。

「授業中失礼します。四階魔導研究室にて、火災報知器が作動しました。生徒達は、教員の指示があるまで、その場に待機してください」

…!

「シルナ、これ…」

「うん…」

珍しく、シルナの顔も強張っていた。

イーニシュフェルト魔導学院の四階に、魔導研究室などない。

そんな部屋は存在しない。

これは、校内に「本物の」不審者が侵入したことを知らせる警告なのだ。

だからこそ、火事が起きたのにその場に待機しろ、なんて矛盾したことを言うのだ。

「すぐ分身送る」

シルナは、校内に何人もいるシルナ分身を動かした。

後で聞いたところによると。

最初に「不審者」を発見したのは、二年生の生徒で。

その生徒が、震えながらイレースに報告し、こうしてイレースが緊急放送を出したそうだ。

「繰り返します。生徒達は、教員の指示があるまで、その場に待機してください…」

イレースは、繰り返し生徒にそう告げた。

これは、避難訓練などではない。

迂闊に廊下に出て、不審者とやらに遭遇し、何かがあったら。

イーニシュフェルト魔導学院の沽券に関わる。

それどころか、生徒の命に関わるのだ。

慎重に、かつ迅速に動かなくては。

「行くぞ、シルナ」

「うん」

急がなくては。

生徒の身に、何かが起きてからでは遅い。

このイーニシュフェルト魔導学院に侵入した「不審者」とやらを、すぐに捕まえなくては。
< 124 / 742 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop