神殺しのクロノスタシス2

side羽久

──────…シルナは、倒れた不審者を医務室に運んだ。

絶対、そうすると思った。

すぐに警察呼んで、引き取ってもらえば良いものを。

俺は、何も言わなかった。

言っても無駄だからだ。

こんな満身創痍になって、わざわざイーニシュフェルト魔導学院までやって来て。

途切れ途切れの声で、自分を呼んだ。

しかも、イーニシュフェルトの聖賢者という、シルナの異名で。

その時点でシルナにとっては、彼は不審者ではない。

客人と同様なのだ。

怪我を負った客人を、追い出し、突き放し、捕らえさせるシルナではない。

そんなシルナの性格を分かっていたから、俺は何も言わなかった。

何も言わない代わりに、シルナの傍について、客人が目を覚ますのを待った。

「…どうだ?容態は」

「…傷は、そんなに深くない」

魔導師であり、医師でもあるシルナは、客人に回復魔法をかけた。

「ただ、魔力の消耗が激しい。限界をとうに越えてるよ」

…客人があんなにふらふらだったのは、魔力消耗が激しかったせいか。

それなのに、よく歩いてきたもんだ。

「彼、元々保有魔力はかなり多いみたいだね。傷が深くないのは、自分の魔力で自己治癒したからだ。だから、治癒する前の傷はもっと深かったはず…」

「…」

…やっぱり、トラブルの匂いがぷんぷんするな。

これほどの魔力の持ち主。この人は恐らく、相当手練れの魔導師だ。

そんな魔導師に、致命傷レベルの傷を負わせ。

かつ、限界を越えて魔力を使わせた。

一体、何処にそんな悪魔みたいな人間がいるのか。

「まずは、魔力が回復するのを待たないと…」

…少なくとも、自力歩行が出来るくらいには。

それまでは、何処にも通報せず、医務室で面倒を見るってことか。

俺は正直、反対だ。

こんな、トラブル臭満載の不審者は。

さっさと警察なり聖魔騎士団なりに引き渡して、手を引くのが吉というもの。

だが、シルナは決して、そんなことはしないだろう。

…仕方ない。

今回も、トラブル好きのシルナに付き合ってやるとするか。
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