神殺しのクロノスタシス2
「…随分、顔色が良くなったようだな」

「…お陰様で」

最初見たときは、今にも死にそうな顔をしていたが。

今は血色も良くなり、上半身を起こして、腰掛けることも出来るようになっている。

だが、やはりまだ本調子ではないのだろう。

身体はダルそうだったし、何処か疲れた表情をしていた。

あれだけ魔力を消費すれば、無理もない。

完全回復までは、まだまだ時間がかかることだろう。

つまりは、それだけ天音の保有魔力が多いということだが…。

一体、何処に所属する魔導師なのか。

あるいは、何処にも所属していないのか。

今なら、それを確かめることが出来るだろう。

「尋問」には、俺とシルナ、そしてイレースも同席していた。

彼に敵意がないことは分かっているが、万が一、という可能性は消えていない。

「先に言っておくが、シルナは勿論、俺と、そこにいる女…イレースも、聖魔騎士団魔導部隊大隊長に匹敵する魔導師だ。変な気は起こすなよ」

一応、釘は刺しておく。

「こら、羽久…。そんなに脅すものじゃないよ」

と、シルナは言うが。

お前の危機感がなさ過ぎるんだ。

「ごめんね、君の身の安全は保証するから、安心して」

「…いえ、警戒されるのは当然です」

数日前とは違って。

天音は、ハッキリとした口調で答えた。

そして、真っ直ぐに俺達を見つめた。

「…改めて、匿ってくれて、本当にありがとうございます」

「…」

「僕の名前は天音。天音・オルティス・グランディエと言います」

天音・オルティス・グランディエ…。

随分と豪奢な名前だが。

フルネームで聞いても、やはり聞き覚えがない。

「もう、察していることと思いますが…僕は、魔導師です」

「…知ってる」

それも、相当手練れの魔導師だってこともな。

「そんなことより、何をしに来たのか話せよ」

「あのね、羽久。そんな喧嘩腰に…」

と、シルナは諌めたが。

「うるせぇ。お前、自分が命狙われてるかもしれないって分かってるのか?」

シルナは、魔導師なら誰もが知る有名人。

いつ命を狙われても、おかしくはないのだ。

そしてそんな輩を、俺は許す訳にはいかない。

すると。

「…自分が疑われてることは、分かっています」

…なかなか殊勝じゃないか。

「だからこそ言わせてください。誓って、僕はシルナ・エインリーさんに危害を加える為に、ここに来たのではありません」

「…どうやって、それを信じろって?」

敵じゃないですって言われて、その言葉を鵜呑みにするとでも?

お前が何に誓いを立てて、シルナに危害を加えないと言ってるのか知らないが。

敵じゃないと言うなら、その根拠を示せ。

そうでなければ、とても信用出来ない。

「…」

天音は、少し考え。

そして。

「…これから、僕が話すことを聞いてもらえますか?」

と、聞いた。

何を言いたいってんだ?

「…あぁ」

「ありがとうございます」

軽く会釈して、それから天音は、シルナの方を向いた。

「まず、シルナ・エインリーさん…。一つ聞かせてください」

「何かな?」

「あなたは、『殺戮の堕天使』を知っていますか」

…あ?

…何だ、その中二病満載の異名は。
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