神殺しのクロノスタシス2
その村では、丁度、村長の一人娘が病に倒れ、困っているところでした。

原因の分からない病で、高い熱や全身の痛みに苦しんでいました。

村長は、一人娘の危機に取り乱し、あらゆる薬草や祈祷を繰り返していました。

村人も同じように、何とかして村長の一人娘を救おうと、躍起になっていました。

と言うのも彼女は、優しくて気立てが良く、村人全員にとって憧れの的だったそうです。

村長にとっては勿論、村の全員にとって、その娘は宝物のような存在でした。

それなのに、その宝物は、今にも死にそうになっている。

村人は毎日、殺伐として、ただただ祈りを捧げていました。

中には、己の家畜を生け贄にして、彼女の命を助けてくれと祈っていた者もいたそうです。

そんなときに突如現れた僕は、村人にとって、救世主のような存在でした。

彼らは、僕を怪しげな魔術師と忌み、追い払う代わりに。

どうか彼女を救ってくれと、村長の家に案内しました。

それだけ、追い詰められていたんだと思います。

保守的で、魔法の概念が知られていない村では、僕のような存在は、怪しげな術を使うインチキ呪い師のように扱われることも多かったので。

彼らは、何処ぞの者とも知れない魔導師である僕にすがり、村長の一人娘を救ってくれるよう頼みました。

僕が村長の家に辿り着いたときには、娘には既に死相が漂っていました。

あの世に片足、踏み込んでいるも同然の有り様。

非常に危険な状態でした。

僕は、急いで回復魔法をかけました。

いくつもの魔法を組み合わせ、彼女にとって最も効果的な魔法を編み出しました。

これが、僕の最も得意とする魔法です。

一日二日では足りず、僕は村長の家に泊まり込みで、およそ二週間もの間、彼女に魔法をかけ続けました。

勿論、魔法だけで治りはしませんから。

滋養も、休養も必要です。

僕は、失礼を承知で、村人に頼みました。

森に入ってあの薬草を取ってきてくれ、あの木の実を拾ってきてくれ、と。

村人は嫌がることなく、率先して看病を手伝ってくれました。

僕が何か頼めば、言われた通りのものを、すぐに持ってきてくれました。

村人の好意に感謝しながら、僕はその薬草や木の実を使って、滋養のあるスープを作り、娘に飲ませました。

また、特別な種類の木の根を擂り潰し、香辛料と混ぜ、粉薬にして彼女に飲ませました。

所謂民間療法と呼ばれるものですが、これはとてもよく効きます。

連日に渡ってかけ続けた回復魔法。

そして、村人達の献身的な看護。

そのお陰で、一ヶ月もたつ頃には、娘はすっかり元気を取り戻しました。

これには、本人も、村長も、そして村人の全員が大喜びでした。

何と言っても、今にも死にかけていた少女が、何事もなかったかのように回復したのですから。

彼らにとっては、奇跡に等しかったのでしょう。
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