神殺しのクロノスタシス2
とはいえ、精々二、三ヶ月で村を発とうと思っていた僕でしたが。

それが、そうは行きませんでした。

村人は、毎日のように自分の家に僕を招いてくれました。

今日はこの家、明日は隣の家、明後日はその隣の家、という風に。

どの家を訪ねても、僕が来るから、とわざわざ家畜を潰し、ご馳走を作ってくれたものです。

僕は魔導師だから、食事の必要はほとんどなかったのですが。

あれもこれも食べなさいと、色々持ってきてくれました。

本当に、心優しい村人達でした。

それだけでも、村を離れるのは名残惜しいのに。

更に、村長は、自分の一人娘を助けてくれたお礼に、その一人娘を僕の嫁にもらってくれ、とまで頼んできたのです。

しかも、娘の方も、満更ではないと言うではありませんか。

私の命を救ってくれたのはあなたなのだから、私の人生をあなたに捧げたい、と言われました。

たかが旅の魔導師が、一つの村の村長の一人娘をもらうなんて、恐縮にも程があります。

僕は遠慮したのですが、村長はすっかり、自分の娘は僕に嫁がせる、それ以外相応しい男はいないと言い張り。

挙げ句、村人達もそれを止めるどころか、大いに賛成する始末。

何なら第二夫人、第三夫人にうちの娘は要らないかと、年頃の娘を何人も連れてこられたりしました。

一夫多妻制の村だったのです。

それ以外にも、僕が村を去れない理由がありました。

僕が村に滞在していることを聞き付け、近隣の村々から、病人や怪我人を治してくれないか、と依頼が来るようになったのです。

勿論、困っている人々を見捨てる僕ではありません。

自分で歩ける者は、僕が滞在する村までやって来て、診察を受けました。

自分で歩けないほど衰弱している者は、村人の手引きで僕が向かい、そこで診察しました。

そうして、一人また一人と、命を救っていったのです。

中には、村人の女性のお産を手伝ったこともあります。

その女性は初産で双子を出産しようとしていて、医療設備の整っていない環境では、かなりの難産でした。

女性も、生まれてきた双子の子も、酷く衰弱していました。

僕は弱った彼女達に、慎重に回復魔法をかけました。

母親も、子供達の命も救おうと思ったのです。

僕の魔法と、村人達の祈りもあって。

一時は危うかった母子の命は、無事に危機を脱しました。

元気に母親の乳房を片方ずつ吸う我が子を見て、母親は泣きながら、僕にお礼を言いました。

母親だけでなく、父親も、母親の義母も。何度も何度も頭を下げ、この恩をどう返したら良いか、と土下座までされました。

お礼なんて、言葉以上のものは必要ありません。

命が助かって良かった。

救える命が、助かって良かった。

僕の心にあるのは、それだけでした。
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