神殺しのクロノスタシス2
運動会、という言葉を聞いて。

イレースは、特大の溜め息をついた。

「…そんなものやってたんですか。この学院は」

この、軽蔑の眼差し。

「え、そんなもの…?」

対する、シルナの間抜けな顔。

「運動会だよ、イレースちゃん。運動会楽しいよね!」

「ラミッドフルス魔導学院に、運動会なんてものはありませんよ」

「えぇぇぇぇ!?」

ちょ、絶叫や

鼓膜破れかねん勢いの「えぇぇぇぇ」だった。

へぇ。

ラミッドフルスって、運動会ないんだ。

それは初めて知った。

まぁ、特に珍しくもないか。

「な、何で…!?何でそんな恐ろしいことが…」

わなわなと震えるシルナ。

「運動会のない学校なんて…チョコケーキを売ってないケーキ屋さんと一緒だよ!」

お前は、学校というものを何だと思ってるんだ。

シルナにとって運動会は、ケーキ屋のチョコケーキと同列らしい。

ケーキ屋に失礼だろ。

「何で運動会しないの!?何で?何でなの!?」

イレースにすがるシルナ。

おい、みっともないからやめろ。

「何でと言われましても…。時間の無駄だからですよ」

「時間の、無駄!?」

考えてもみなかった、みたいな顔で愕然とするシルナ。

…まぁ、シルナの手前、俺も今まで口を挟みはしなかったけどさ。

口を挟んだところで、シルナが考えを改めるはずがないって、分かってたし。

でも。

そういう方針の魔導学院が少なくないってことは、俺も知ってた。

何故、運動会がないのか。

イレースの言う通り、時間の無駄だからだ。

「他の、普通科の一般の高校ならいざ知らず…」

と、イレース。

「ここは魔導学院。それも、ただの魔導学院ではありません。将来、聖魔騎士団魔導部隊に所属する魔導師を要請するエリート魔導学院の一つ」

イーニシュフェルトしかり。

ラミッドフルスしかり。

「そんな学院の生徒が、魔導の勉強以外に費やす時間など、あってはなりません」

「…!!」

「徒競走だの綱引きだの、やってる暇があったら…魔導理論の一つでも覚えなさい。その方が、余程時間を効率的に使えます」

「…」

「時間は有限です。学生時代は、余計に。一分一秒、無駄にして良い時間などありません。運動会など馬鹿らしい。その時間を授業に回すべきです」

イレース、一刀両断。

そして、それは紛れもなく正論である。
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