神殺しのクロノスタシス2
しかし。


数日後、授業を終えて学院長室に向かうと。

シルナは、えらく難しい顔で唸っていた。

「…うーん…」

「…」

「…うーん…。困ったな~…」

ちらっ。

「…」

「困ったな~。誰か相談に乗ってくれないかな~…」

ちらっ。ちらっ。

「…」

…うん。

「…おぉっと!次の小テストの問題、まだ作ってなかったな!職員室戻るか!」

「ちょっと待って羽久ぇぇぇ!」

職員室に避難しようとしたところを、シルナに羽交い締めにされた。

畜生。あと少しだったのに。

「せめて羽久だけでも残って!」

「はぁ?」

「イレースちゃん逃げちゃったんだよ!私の顔を見るなり!一瞬で回れ右して!酷くない!?」

そうか。

イレース、お前は逃げ切れたんだな。

お前は賢いなぁ。俺もそうなりたい。

「何なんだよ、鬱陶しいな」

「鬱陶しいって!酷い!」

「どうせ大したことじゃないんだから、さっさと言え」

「大したことだもん!物凄く、ふか~い悩みなんだからね!」

…ふーん。

「…何、そのどうでも良さそうな目」

…実際どうでも良いし…。

こういうときのシルナの悩みなんて、たかが知れてる。

本気の悩みは、まず態度にすら出さないからな。こいつは。

「…で?その深い悩みって何」

「運動会のことなんだよ!」

あ、そう。

「運動会が何?毎年やってんだから、例年通りやれば良いじゃん」

今年から新たに始める訳でもなし。

いつも通りやれよ。

何か問題でも?

すると、シルナは窓の外を見て、遠い目で語り始めた。

「私はね、羽久…。忘れられないんだ」

あっ、これ面倒臭い奴だ。

こっそり帰って良いかな。

「去年の優勝チーム…覚えてる?」

「あ?」

去年優勝したチームって言ったら…。

「確か…赤組だったろ」

「そう!そうなんだよ」

それが何なんだよ。

今更異議申し立てか?一年たつのに。

しかし、そうではなく。

「二位のチームは覚えてる?」

「二位…?えーっと…」

そんなとこまで覚えてないんだけど…。俺の記憶が正しければ、確か…。

「…緑?」

「そう!緑だったの!」

「それが今更何なんだよ?」

もう終わったことだろ。今更それが何か?

「ものすご~く僅差で負けたの!覚えてる!?赤組223点で、緑組221点で負けたの!」

お前、そんなところまでよく覚えてるな。

無駄な記憶力の良さ。

まぁ、確かに凄く良い勝負してるな。二点差とは。

「それで負けた緑組の生徒の、あの悔しそうな泣き顔が、私、今でも忘れられないんだよ!」

「…」

やっぱり面倒臭いから、今からでも部屋出てって良いかな。
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